KURENAI NO SYSTEM
http://kurenainosystem.jp/

デジタル信号処理技術



(参考図書)
Wavelet Methods for Time Series Analysis
(Author)Donald B. Percival, Andrew T. Walden

ウェーブレットの歴史

ウェーブレットの歴史は浅く、1982年頃、フランス人石油探査技師J.モルレー(J. Morlet)が、不規則な信号を効率よく処理する手段として実用化を試みたのが始まりである。 その後、数学、物理学、工学などの分野で理論化が進められる一方、画像処理、音声処理をはじめ、信号処理一般に有効な手法であることが認識され、応用範囲を急速に拡大しつつある。 しかし、経済学やファイナンスへの応用は始まったばかりで、未開拓のフィールドといってよい。
われわれが直接観察できる経済データは、短期的な変動から長期的な変動まで、いくつもの成分が積み重なった結果であり、その動きは非常に複雑である。 こうした複雑な信号を単純な時系列の和として表現する手法の1つに「フーリエ解析」がある。 フーリエ解析では、任意のデータ系列を周波数の異なる複数の波(三角関数)の和として表現する。 フーリエ変換して得られる「スペクトル密度」を観察すれば、データの動きを支配している周波数を特定化することができる。 しかし、フーリエ変換を行うと、時間に関する情報が失われてしまうため、時間の経過と共にデータの周波数特性が変化する場合、そうした変化を把握することができない。

周波数特性の時間的変化を把握できないというフーリエ変換の欠陥を補う方法の1つに「窓フーリエ変換」がある。 D. ガボール(D. Gabor)は、小さな窓を作って、そこからみえる時系列データをフーリエ変換し、その窓を時間軸に沿ってスライドさせるという「時間周波数解析」を発案した。 これによって、周波数特性の時間的変化を捉えることが可能になった。ところで、窓の大きさ(時間枠)を小さくすれば、いくらでも詳細な情報が得られるのであろうか。 答えはノーであることが、「不確定性原理」(uncertainty principle)と同じロジックで証明されている。 すなわち、ある時系列データから時間と周波数の情報を抜き出すとき、時間的な詳細さと周波数的な詳細さの間にはトレードオフの関係があり、両者を同時に追求することができない。 そこで、このトレードオフを所与として、窓フーリエ変換は効率的かという点が、次の問題となる。 実は、周波数によらず、一定の時間枠を用いる窓フーリエ変換は、必ずしも効率的ではないことがわかっている。

こうしたフーリエ解析の限界を補うものが、ウェーブレット解析である。

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フーリエ解析とウェーブレット解析

ウェーブレット解析は、任意の時系列データをウェーブレットの和として表現する手法である。 一方、フーリエ解析は、任意の時系列データを、無限に続く恒久的な波の和として表現するものである。


ウェーブレット解析

フーリエ解析


規則的な変動を繰り返すデータに対しては、詳細な周波数解析を行うフーリエ変換が効率的である。 しかし、フーリエ変換は、不規則に発生するショックを扱うのが苦手である。
一方、ウェーブレット変換は、そうした不規則変動を示すデータに対して、威力を発揮する。


山と谷が不規則な間隔で並んでいるデータを考える。



これをフーリエ変換すると、「スペクトル密度関数」が得られる。これは、周期の異なる複数の波が、どの程度含まれているかを示したものである。 たった4つの起伏しか持たないデータでも、フーリエ変換を使うと、無数の波から合成される必要があることがわかる。


一方、同じデータをウェーブレット変換した結果である。これをみると、原系列が、2、4、8期という周期(スケール)を持った小さな波から合成されていることがわかる。 しかも、それぞれの波がどの時点で生じたかが示されている。


フーリエ変換の結果よりも、ウェーブレット変換の結果の方が、時間軸を導入したために自然に映る。


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ウェーブレット・フィルタ

ウェーブレット変換は、一種の線形フィルタリングと解釈できる。 このため、変換に用いられるウェーブレットは「ウェーブレット・フィルタ」と呼ばれる。 「ウェーブレット・フィルタ」の代表的なものを紹介する。

変換によって得られた結果は、「ウェーブレット係数」と呼ばれる。

(1)ハール

 スケーリング・フィルタ ウェーブレット・フィルタ  ウェーブレット・フィルタの
スペクトル密度 
     


(2)D(4)

 スケーリング・フィルタ ウェーブレット・フィルタ  ウェーブレット・フィルタの
スペクトル密度 
     


(3)D(12)

 スケーリング・フィルタ ウェーブレット・フィルタ  ウェーブレット・フィルタの
スペクトル密度 
     


(4)LA(8)

 スケーリング・フィルタ ウェーブレット・フィルタ  ウェーブレット・フィルタの
スペクトル密度 
     


(5)MB(8)

 スケーリング・フィルタ ウェーブレット・フィルタ  ウェーブレット・フィルタの
スペクトル密度 
     

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ウェーブレット変換


ウェーブレット・フィルタにはさまざまな形があるが、フィルタをいったん決めてしまうと、ウェーブレット変換は、統一的な方法で実行される。 ここでは、S.マーラ(S. Mallat)によって考案された実践的なウェーブレット解析の実行法である「ピラミッド・アルゴリズム」を紹介する。 ピラミッド・アルゴリズムは高速で、しかも、ウェーブレット変換を一種の線形フィルタリングとみなす立場からは、直感的に理解しやすいというメリットがある。
原系列をウェーブレット係数に分解するプロセスを「ウェーブレット変換」、そして、ウェーブレット係数を原系列に再構成するプロセスを「ウェーブレット逆変換」と呼ぶ。

原系列をx = (x1,×××, xN )とする。ただし、N は2のべき乗の倍数である。ピラミッド・アルゴリズムの第1段階では、原系列をウェーブレット・フィルタhに通して、レベル1のウェーブレット係数w1を得る。 ここで、Nは原系列の長さ、t は1からN/2までの整数である。
変換のプロセスをイメージ化したものである。

ウェーブレット・フィルタはデータの一階差をとる操作、スケーリング・フィルタはデータの二期移動平均をとる操作と類似している。。
ウェーブレット・フィルタが階差と、スケーリング・フィルタが移動平均と類似しているという点は、スケーリング・フィルタは1つの山、ウェーブレット・フィルタは山と谷のセットという先の議論の裏返しである。 すなわち、スケーリング・フィルタは、やや長い目でみたときのデータの趨勢を捉えるものであり、 ウェーブレット・フィルタは、データの趨勢的な流れからの乖離を捕捉している。 そして、これら2つが合わさって、原系列に含まれる情報が保存されるのである。
ピラミッド・アルゴリズムの第2段階に進もう。第1段階で得られたウェーブレット係数w1は、大まかにいうと、原系列の変動のうち、周期が2の部分を捉えたものである。

ウェーブレット逆変換(再構成)
先に、ウェーブレット変換を施しても、原系列が持っている情報量は失われないことを指摘しておいたが、実際、変換によって得られたウェーブレット係数とスケーリング係数から、原系列を復元することができる。この操作は、「ウェーブレット逆変換」と呼ばれる。
ウェーブレット逆変換は、文字どおり、ウェーブレット変換の逆をいく。ここでは、レベルi+1 のウェーブレット係数wi +1とスケーリング係数vi +1から、レベルiのスケーリング係数vi を再構成する。 まず、ダウン・サンプリングにより減少したデータを水増しするために、「0」をwi +1とvi +1のデータの間に織り込んでいく。 つまり、w0i+1 = (0, wi +1,1, 0, wi +1,2,×××)とv0i+1 = (0, vi +1,1, 0, vi +1,2,×××)というデータを作る。これをアップ・サンプリングと呼ぶ。

〈ウェーブレット逆変換〉
i + 1レベルのアップ・サンプリングされたウェーブレット係数w0i+1をウェーブレット・フィルタhに通し、 レベルi + 1のアップ・サンプリングされたスケーリング係数v0i+1をスケーリング・フィルタgに通し、2つのアウトプットを足すと、レベルi のスケーリング係数vi を得る。


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多重解像度解析

ウェーブレット変換が行っているのは、大まかにいうと、データの階差と移動平均を何度も繰り返すことである。 まず、多重解像度解析のキーとなる、「ウェーブレット・スムース」と「ウェーブレット・ディテール」を定義しよう。 いま、原系列をウェーブレット変換した結果、多段階のvi とwi が求められたとする。 このとき、w1以外の全てのvi とwi をゼロと置き換え、ウェーブレット逆変換を行う。 最も粗く単調なデータに、起伏のあるデータを少しずつ積み上げていくことによって、原系列を再現するプロセスは、 「多重解像度解析」と呼ばれており、ウェーブレット解析の最も重要な活用法の1つである。


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Maximal Overlap Discrete Wavelet Transform

ウェーブレット変換するためには、原系列のサンプル・サイズが偶数である必要がある。 別の言い方をすると、i 回までウェーブレット変換したいのならば、サンプル・サイズが2i の倍数である必要がある。 MODWT(maximal overlapdiscrete wavelet transform)は、こうした弱点を補う手法であり、偶数サンプルに限らず、あらゆるサンプル・サイズの系列に適用することができる。 MODWTのウェーブレット・フィルタとスケーリング・フィルタは、通常のウェーブレット・フィルタとスケーリング・フィルタを使って定義することができる。
MODWTは、変換時にダウン・サンプリングしない。したがって、逆変換するとき、アップ・サンプリングもしない。 MODWTによって得られるウェーブレット係数は、余分な情報を含んでおり、非効率な変換法である。 MODWTがサンプル・サイズを選ばないという利点を持っていることに対する代償といえよう。

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